後見業務の実例~遺産分割協議~

今回は、トラストで後見人に就任後、遺産分割協議を行った件の一例をご紹介します。

 


Aさんは、娘のBさんと同居していましたが、高齢で認知症を患って1年前から施設に入居しています。

しかし、5年前に亡くなった夫名義の不動産(評価額500万円)について

相続未了であることが判明し、

Aさんの息子であるBさんが相談に来られました。

Aさんは、認知症であることから、遺産分割協議に参加できず、

相続手続きを進められないことから、成年後見制度を利用することになりました。


成年後見制度を利用した場合、

成年後見人は成年被後見人が法定相続分以上の遺産を取得できるようにしなければなりません。

そのため、遺産分割協議では原則として成年被後見人の法定相続分を確保する必要があり、

後見人はこれに不利益になるような協議には同意できません。

 

今回の場合において、亡夫の遺産は

評価額500万円の不動産となりますので、

それを各相続人の法定相続分の金額にすると

Aさんの法定相続分(2分の1):250万円

Bさんの法定相続分(2分の1):250万円となり、

後見人として、Aさんの法定相続分の金額250万円は最低でも確保できるように協議しなければなりません。

 

では、この不動産をどのように遺産分割協議をするのか…

Aさんは施設に入所しており、現在Bさんが住んでいる不動産でもあることから

Bさんが全て相続することをまず検討しました。

この場合、Aさんの法定相続分を確保できていないため、

代償金(財産を受け取った相続人が、他の相続人に対して、本来受け取るべき相続分の代わりとなる金銭)を

BさんからAさんに対して支払いをしてもらう必要があります。

 Bさん  Aさん
不動産                         500万円                 0円
金銭                        -250万円

(代償金としてAさんに支払い)

                    250万円
合計                   250万円                  250万円

 

しかし、BさんはAさんに対して代償金250万円を支払うことができない財産状況であるとのことだったため、

この方法で進めることができませんでした。

 

では、どのように遺産分割を進めるか改めて検討していたところ、

Aさんの金融機関での過去の取引を確認すると、Aさんがまだ判断能力が十分にある頃に、

5年前に亡くなった夫の預貯金を全てAさんが相続していることが判明しました。

Bさんにも、そのときのことを聞くと、

「Aさんの今後の生活資金に充てるために、そうしました。」と話していました。

 

そうなると、亡夫の遺産総額は

亡夫の遺産額

不動産 500万円  +  預貯金  1,000万円  =  1,500万円 となり、

各法定相続分の金額は

Aさんの法定相続分(2分の1) 750万円

Bさんの法定相続分(2分の1) 750万円

となります。

 

Aさんは既に預貯金1,000万円を相続しているため、

Aさんの法定相続分(2分の1)750万円は確保できています。

なので、今回の場合、不動産を全てBさんが相続することで、無事に遺産分割協議が完了しました。

 

今回のように遺産分割未了となっていた財産だけで進め方を考えるのではなく、

「他にも遺産があるのでは?」「亡くなった直後に手続きを進めたことはないか?」と

あらゆる可能性を視野に入れて検討することが大切だと勉強になりました。

 

預貯金の調査や本人を支援している方からの話を聞きながら、

ご本人(被後見人)にとって、また、ご親族にとっても最善の方法はないか考えながら進めて参ります。