取消権と同意権
今回は、取消権を行使した実例についてご紹介いたします。
・被保佐人Aさんは軽度の認知症だが、ホームヘルパー等の介護サービスを受けながら一人暮らしをしている。
・Aさんはもともと穏やかな性格で、人に何か言われても、「はい、はい」と何でも受け入れてしまう。
・そんな中、自宅に訪問してきた業者がAさんに自宅のオール電化を提案した。Aさんは、保佐人へ相談しないまま、即日、オール電化の切り替え工事を契約してしまった。
後見制度を利用すると被後見人の利益を保護するために後見人に取消権という権限が与えられます。
取消権とは…一定の法律行為を後から取り消すことが出来る権限
今回のAさんの場合は以下のことが考えられました。
・Aさんは、認知能力と身体機能が低下しており、自分で料理することができないため、宅配お弁当サービスを利用しています。お風呂もデイサービスを利用しているため、ガスの利用頻度が少ない状況でした。
そのため、オール電化にしても、光熱費の節約等のメリットは見込めないと考えました。
・Aさんは、認知機能低下により早期の施設入所が見込まれます。
・Aさんの財産は、250万円と余裕があるとは言えないなかで、ガス給湯器のエコキュート切り替えやガス台のIHクッキングヒーター交換等でオール電化工事費用として約100万円の金額が提示されました。
以上のことから、オール電化契約を進めることは本人の利益にならないと考え、取消権を行使し、本契約を取り消しすることとしました。
また、Aさんは、自宅の電話にかかってくる営業のお話しを断ることが難しく、本人にとって不要な営業の電話や悪質な営業の電話であっても、見境なく商品を購入してしまうことがありました。
そんな中で、Aさんは自宅にかかってきた営業の電話で、1人では、食べきれない大量のカニを購入してしまいました。
しかし、この場合は、
・ご本人が食べたいという希望があったこと
・ご本人の財産状況と照らし合わせて、価格が負担にならないこと
以上のことと、購入したものが生もののためキャンセルすることは難しいと考え、取消権は行使しませんでした。
また、電話をかけてきた業者に対しては、今後、Aさんに対して営業の電話は止めていただくよう依頼しました。
ご本人に対しては、「買い物をする際にはトラストに相談してください!」との旨を記載した張り紙を自宅に貼って、本人にも何度も説明しました。
定期的に被保佐人に面会し、被保佐人が要望や困り事を相談してくださるように信頼関係を築き、
その必要性や意向を聴取し、本人の利益になるかどうかを判断することが大切になります。
しかし、この取消権は、本人の判断能力の程度に応じて判断される「後見」、「保佐」、「補助」類型で違いがあります。
~後見類型の場合~
後見人には日常生活に関する行為以外の行為について取消権が認められています。
しかし、全ての行為について取消権を行使することが認められているわけではなく、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、自己決定権の尊重(本人の自己決定を尊重し、現有能力(残存能力)を活用しようという考え方)から取消権は認められていません。
例:自宅にまだトイレットペーパーが十分にあるにもかかわらず近所のスーパーへ買い物に行くたびにトイレットペーパーを購入してしまう場合
→日常生活に関する行為であり、被後見人の財産状況に照らし合わせてさほど被後見人に不利益にならないであろう事に関しては、自己決定権を尊重し取消権は行使できません。後見人としては、本人に声がけするのはもちろん、被後見人には財産・収支状況を考えて、浪費してしまっても困らない範囲内で生活費をお渡しすることが大切になります。
~保佐類型の場合~
被保佐人が民法第13条第1項に定める行為を行うためには、保佐人の同意権(本人の行為に同意する権限)が必要になります。
民法第13条第1項に定める行為
【不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為】
被保佐人がこれらの行為を保佐人の同意を得ずに行った場合に、保佐人は被保佐人の不利益になると判断した場合には取消権を行使し、その行為を取り消すことが可能です。
~補助類型の場合~
補助類型の場合には、保佐類型とは異なり、民法第13条第1項に定める行為のうち、審判で認められた行為だけに同意権が付与されます。
被補助人が同意権を認められている行為を補助人の同意を得ずに行った際に、その行為が被補助人の不利益になるような場合には補助人は取消権を行使し、その行為を取り消すことが可能です。
今回のご相談内容のような悪質な営業により、不要な商品や高価な商品を購入してしまった場合に成年後見制度を利用している方であれば取消権の行使を検討することが出来ます。
ただし、本人がどの類型に当てはまるかによって違いがあり、特に「補助類型」の場合には、本人の性格や行動を見極めて必要な同意権の付与申立をしなければ、せっかくの後見制度を有効に活用することが出来なくなる可能性があるので注意が必要です。
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