被後見人に身寄りがいない場合の実例

今回は、身寄りがいない被後見人が亡くなってしまった場合の火葬又は埋葬についてご説明いたします。


・被後見人Aさんは高齢で寝たきりの状態で施設に入所中。

しかし、体調を崩し、施設の近くにある病院に入院することになった。

医師によると余命わずかとのことだが、Aさんには親族等の身寄りがいない。

残念ながらその1か月後にお亡くなりになった。


被後見人が入院となった際に、ご家族の方が駆けつけて入院手続きができないということもあるかと思いますが、後見人が代わりに入院手続きや入院費の支払いを行うことができます。

また、入院生活中に必要な物品の購入、お届けも行っております。元気に回復し退院できるように後見人としてできることを行い、支援していきますが、残念ながらそうでないときもあります。

 

被後見人がお亡くなりになると、原則として後見人としての法定代理権等の権限が消失してしまいます。

(民法第111条第1項,第653条第1号参照)


(代理権の消滅事由)

第111条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。

一 本人の死亡

二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。

2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

(委任の終了事由)

第653条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。

一 委任者又は受任者の死亡

二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。


そのため、あくまでも一例ですが

・ご本人の葬儀、火葬、埋葬

・ご本人様がお亡くなりになった後の支払い

・退去手続き、荷物の引取り

等は、ご親族の方へ対応をお願いしております。

 

しかし、被後見人にご家族・ご親族がいない、疎遠である等による理由で対応する人がいない可能性もあります。

被後見人の火葬又は埋葬は、ご家族・ご親族の方が対応することが原則と考えられていますが、成年後見人等が火葬又は埋葬に関する業務を一切行えない場合、亡くなられた被後見人を長期間放置することになってしまいます。

また、実際には、成年後見人は,成年被後見人の死亡後も一定の事務(死後事務)を行うことを周囲から期待されており、社会通念上これを拒むことが困難な場合があるため、民法が改正されました。

 


(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)

民法873条の2

成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
 一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
 二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
 三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)


そのため、以下の一定の要件を満たした場合に限り、裁判所の許可を得て

成年後見人が、火葬又は埋葬に関する業務を行うことができるようになりました。

  • 成年後見人が火葬又は埋葬を行う必要があること

被後見人の相続人と連絡が取れないときや消息が不明等の場合に、成年後見人は、これらの事情であることを家庭裁判所に説明し、許可を事前に得てから火葬又は埋葬に関する契約を締結することになります。

また、成年後見人が対応することができる業務は火葬又は埋葬とされています。高額な支出が発生するような葬儀や永代供養などは、相続人らなどとトラブルになってしまうこともあるため許可を得られません。

  • 「ご本人の相続人の意思に反することが明らか」とはいえないこと

亡くなられた被後見人を長期間放置することができないという時間がない中で、被後見人のご家族やご親族全員の同意を得ることが難しいケースも多いため、法律では「同意」を要求しておらず、積極的に反対する相続人がいないかどうかが大切になります。

そのため、実際には、「相続人の存在が明らかでない」、「後見人と相続人が疎遠である」といった理由等で家庭裁判所より許可を得ることが多いです。

  • 成年後見人による申請であること

民法873条の2に基づく家庭裁判所の許可を得ることができるのは「成年後見人」に限定されています。

「保佐人」「補助人」には、この申請をする権限はありません。

 

改正法では、成年後見人は、成年被後見人の死亡後にも、個々の相続財産の保存に必要な行為、弁済期が到来した債務の弁済といった一定の範囲の事務を行うことができることとされ、その要件が明確にされました。

ただし、これはあくまで例外的な取り扱いであることに注意が必要です。

 

そのため、私どもでは、被後見人がお元気なうちに関係者等へ聞き取りを実施し、万が一に備えてご家族やご親族の方へ連絡を取れるようにお願いをしております。ご家族やご親族の方と交流なかったという被後見人が、後見制度を使うことをきっかけに、親族と交流が取れるようになったケースもあります。

このように私ども後見人だけでは対応ができないこともあるため、可能な限りご家族やご親族の皆様にご協力いただきながら、日々業務に取り組んでおります。

 

「遠方に住んでいる高齢の親族の支援が難しい・・・」「身寄りがいない・・」などお悩みの方は、経験豊富な司法書士法人トラストがお手伝いいたしますので、お気軽にお問い合わせください。